補助金における「常時使用する従業員」と「給与支給総額」の考え方について、行政書士が解説!
【2025年6月22日作成】
補助金申請を検討している中小企業の方からよくいただく質問に、「常時使用する従業員とは具体的に誰を指すのですか?」や「役員報酬は給与支給総額に含まれますか?」いうものがあります。 特に、ものづくり補助金や新事業進出補助金のように従業員数によって補助上限額や申請要件が変わる制度では、この定義を正確に理解しておくことが非常に重要です。 本稿では、この「常時使用する従業員」と「給与支給総額」の考え方について、多くの補助金の支援実績がある行政書士の古森(こもり)が解説します。

「常時使用する従業員」の法律上の定義(労働基準法第20条)
多くの補助金制度(例:ものづくり補助金や新事業進出補助金)では、「常時使用する従業員」とは、労働基準法第20条で解雇の予告が必要とされる従業員を指すとされています。
つまり、「解雇する場合に原則30日前の予告が必要な人」=「一定の継続性をもって雇用されている人」がという解釈です。 なお、その「解雇予告が不要な例外」については、労働基準法第21条に定められており、あわせて確認する必要があります。下記にそれぞれの条文を引用します。
(解雇の予告)
第二十条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。 三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。 但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条
前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。 但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、 第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は 第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
- 日日雇い入れられる者
- 二箇月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
- 試の使用期間中の者
わかりやすい説明(労働基準法第20条・第21条)
会社が従業員を解雇しようとするときは、少なくとも30日前に知らせなければなりません。 もし30日前に知らせない場合は、30日分以上の給料(平均賃金)を支払う必要があります。
ただし、次のような特別な事情がある場合はこの限りではありません:
・災害などで事業を続けられなくなったとき
・労働者本人に原因がある解雇のとき
加えて、次のような働き方をしている人にも、この「30日前に知らせるルール」は原則として適用されません:
1. 日ごとに雇われている人
2. 2か月以内だけ働くと決められている人
3. 季節的な仕事で、4か月以内だけ働くと決められている人
4. 試用期間中で、まだ14日以内の人
ただし、これらの人も決められた期間を超えて続けて雇われた場合は、30日前の通知が必要になります。
以上のように、法律上の定義では、正社員、契約社員、アルバイト、非正規社員、出向者という区分をしておらず、「常時使用する従業員」に該当するか否かは、条文をもとに個別に判断します。 よって、非正規社員やアルバイトでも多くの方が「常時使用する従業員」に該当する可能性があります。
補助金における「従業員」の定義
ものづくり補助金や新事業進出補助金における「従業員」の概念は、前述の「常時使用する従業員」という定義に基づいています。 ただし、補助金の申請や要件で出てくる「従業員」という表現は、文脈によって「常時使用する従業員」と完全に一致する場合と、ずれる場合(含意が異なる場合)があります。 以下は、ものづくり補助金のQAからの引用です。
従業員数は、公募申請時の「常時使用する従業員の数」で算定してください。 「常時使用する従業員の数」とは、中小企業基本法上の「常時使用する従業員」をいい、 労働基準法第20条の規定に基づく「解雇の予告を必要とする者」をいいます。
従業員数に基づく各判定は以下の時点で行います。
- 補助対象者の判定:公募申請時及び補助事業実施期間終了時の従業員数
- 補助上限額の判定:公募申請時の従業員数
- 小規模企業者・小規模事業者の判定:公募申請時及び補助事業実施期間終了時の従業員数
このように、「常時使用する従業員」は、ものづくり補助金の「従業員」の概念として広く使われております。 一方で、「一人あたり給与支給総額」の計算においては、例外的に「労働者名簿に記載された従業員」を基礎として用いるとされています。 つまり、補助金制度において「従業員」と表現される場合でも、すべてが同じ基準ではなく、文脈によっては在籍している人数(名簿上の人数)を用いるケースがあるということです。
実務的には、各補助金の公募要領を読んだ後に、FAQを確認し、それでも判然としない場合は事務局に問い合わせることになります。
役員は「常時使用する従業員」に含まれない
「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者(労働基準法9条)とされるため、前述の労働基準法20条・21条を基礎に定義される「常時使用する従業員」には、役員(取締役、執行役)は含まれません。 ただし、「役員」を含む用語の定義は、各補助金の公募要領に従って、判断する必要があるため、念のため公募要領やQAで再確認してみましょう。ものづくり補助金における「役員」につき、QAには下記のような記載があります。
「常時使用する従業員」には、代表者や専従者(=家族従業員)は含まれません。 これらの混入が判明し、後になって補助上限額や補助率の訂正が必要になるケースが生じていますので、十分ご注意ください。
また、新事業進出補助金のQAにおいては「役員」につき、下記のような記載があります。
会社役員及び個人事業主は中小企業基本法上の「常時使用する従業員」には該当しないと解されます。
役員報酬は「給与支給総額」に含まれる?
「給与支給総額」の定義は補助金の種類によって異なります。本稿で題材にしているものづくり補助金と、新事業進出補助金では次のような違いがあります。 ものづくり補助金においては役員報酬を「給与支給総額」に含み、新事業進出補助金においては役員報酬を「給与支給総額」に含みません。
ものづくり補助金(第20次)の場合:
給与支給総額とは、従業員及び役員に支払った給与等 (給料、賃金、賞与及び役員報酬等は含み、福利厚生費や法定福利費、退職金は除く)をいいます。 (公募要領15p)
新事業進出補助金(第1回)の場合:
給与支給総額とは、従業員に支払った給与等 (給料、賃金、賞与等は含み、役員報酬、福利厚生費や法定福利費、退職金は除く)をいいます。 (公募要領16p)
まとめ
補助金申請では「常時使用する従業員」や「給与支給総額」の定義を正確に理解することが重要です。 定義の違いが補助要件や上限額に直結するため、各制度ごとに確認が必要です。
筆者は、銀行および投資銀行での勤務経験を持つ行政書士として、金融と経営の両面から皆様の申請をサポートしています。 また、当事務所では、同等の知識と経験を有する提携行政書士と共同で、単独受任時と変わらない報酬体系での支援も行っています。
とくに「初めてで不安」、「申請書をうまく作れない」と感じている方は、お気軽にご相談ください。 LINE・フォーム・お電話から、初回無料でご相談いただけます。安心・確実な申請をご支援いたします。
提携先:行政書士藤原七海事務所
参考法令・資料
- 労働基準法
- 中小企業基本法
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金-公募要領(第20次公募)
- 全国中小企業団体中央会- ものづくり補助金 - よくある質問
- 中小企業新事業進出補助金-公募要領(第1回)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金サイト
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