新事業進出補助金の事業計画書の書き方 ~銀行出身の行政書士がやさしく解説~
【2025年5月31日更新】
2025年4月22日に新事業進出補助金の公募要領が公開され、5月下旬に「事業計画テンプレート」も公開されました。
事業計画書を作成する際は、数字(定量面)と説明(定性面)の両方から、根拠や理由をわかりやすく記載することが大切です(実際の入力は電子申請システム上で行います)。 このページでは、銀行勤務経験もある行政書士が、公開されている審査項目をもとに「全11項目」の記入方法を、具体例を交えながら、順番に解説します。

「新事業進出補助金」の概要、スケジュール、補助率、補助上限額、補助対象経費等について、下記の記事で詳しく解説しています。
2025年 新事業進出補助金 - 申請の要件、対象経費、スケジュール1.既存事業の内容
「新事業進出補助金」の事業計画には、合計11項目を記載します。最初は「既存事業」についてです。 内容は、1.申請者の概要と2.既存事業の内容の2つに分けて書きます。特に既存事業の内容は、新規性の審査でとても重要なので、現在の事業について漏れなくまとめましょう。
- 申請者の概要
自社の概要(設立年、沿革、体制、経営理念等)について簡潔に記載します(300字以内) - 既存事業の内容
今行っている事業を、下記7点で具体的に記載します。抜け漏れがあると不採択になる可能性もあるので注意! - 事業の名称(20字以内)
- 主な製品/サービスの名称(50字以内)
- 主な製品/サービスの内容(300字以内)
- 市場(顧客層)(300字以内)
- 単価や売上高(300字以内)
- 実施体制(300字以内)
- 事業実施場所(300字以内)
既存事業が複数ある場合は、1~7を事業ごとに記載します。
2.補助事業の具体的取組内容
2つ目は「新しく取り組む事業(補助事業)」について。ここは審査で最も重視される部分です。
- 新規性(新事業進出指針)
新規性の要件は、以下の両方を満たす必要があります。
(1)製品等の新規性:
既存の製品やサービスと、新たに取り組む製品やサービスの内容を記載し、それらの違い(過去に製造・提供していないことを含む)を具体的・網羅的に説明します。
(2)市場の新規性:
既存市場(顧客層)と新たに開拓する市場(顧客層)の内容を記載し、両者の違い(顧客層が異なることなど)を具体的・網羅的に説明します。なお、単なる商圏拡大は新規市場とはみなされません。
具体的な事業計画書には、下記1-6を記載し、その中で上記(1)(2)の要件に該当していることを説明します。 - 主な製品/サービスの名称(300字以内)
- 主な製品/サービスの内容(300字以内)
- 市場(顧客層)(300字以内)
- 単価や売上高(300字以内)
- 実施体制(300字以内)
- 事業実施場所(300字以内)
3.連携体の必要性(連携体申請の場合のみ)
「連携体」とは、最大20社までの複数の事業者が協力して、1つの補助事業に取り組む形をいいます。 補助金の申請にあたっては、その連携体に参加する全ての事業者が事業にとって必要不可欠であることを、きちんと説明しなければなりません。 もし、その連携が本当に必要とは認められなければ、不採択(申請が通らない)になることもあります。 連携体のメンバー全体で1つの事業計画書を作成しますが、その中でも特にこの「連携体の必要性」の項目では、
- 誰が代表申請者か
- それぞれのメンバーが補助事業でどんな役割を果たすのか
- なぜそのメンバーがいなければ成り立たないのか
以上の点を、具体的に書いてください。
4.現状分析(SWOT分析)
- 現在の事業の状況
自社の既存事業が今どのような状況にあるか、そして今後どのように成長・変化していく見通しかをまとめてください。 その際には、経済や社会の動き(市場環境など)も考慮して、500字以内で簡潔に書く必要があります。 - SWOT分析
現状に関するSWOT分析(自社の強み・弱み・機会・脅威)をそれぞれ300字で記載します。 この分析を踏まえて、なぜ今、新しい事業に取り組む必要があるのかを説明してください。(下記は、架空のテック企業のSWOT分析の例です) - 新規事業の必要性
現在の事業状況とSWOT分析の結果をもとに、 自社が「なぜ今、新しい事業を始める必要があるのか」を、400字以内で説明してください。たとえば、以下のような内容を盛り込むとよいでしょう:- 市場環境の変化で既存事業の成長が見込みにくくなっている
- 自社の強みを活かせる新たなチャンスがある
- 外部リスクに備えるための事業の多角化が必要

5.新規事業の新市場性・高付加価値性(新市場性と高付加価値性は選択制)
5つ目の記載項目は、「新市場性」または「高付加価値性」についてです。
このどちらか一方を必ず満たす必要があります。 以前の「2.市場の新規性」では、「自社にとって新しい市場であるかどうか」が問われました。 一方、ここで求められている「新市場性」は、社会全体においてその製品・サービスがどれだけ普及しているか、認知されているかという観点で判断されます。 つまり、社会的に見ても新しい分野かどうかがポイントになります。
- 新市場性
まず、新しく取り組む製品やサービスがどのジャンル・分野に属するかを、15字以内で簡潔に書いてください。 そのうえで、 そのジャンル・分野が社会全体でまだあまり知られていない、広まっていないものであることを、 客観的なデータや統計(たとえば市場規模、利用者数など)を使って説明してください。 説明文は500字以内に収めてください。 - 高付加価値性
・まず、新製品やサービスが属するジャンル・分野において、一般的にどのくらいの付加価値や価格帯があるのかを、 客観的なデータや統計(例:市場価格、業界平均など)を使って説明してください。
・ 次に、そうした一般的な水準と比べて、自社が提供する新製品・サービスが、より高い付加価値や高価格を実現するものであることを説明してください。 その際には、なぜそれが可能なのか、つまり自社の強みや独自の価値(技術力、デザイン性、ブランド力など)を分析したうえで、しっかりと根拠を示すことが大切です。 まず、新製品等の属するジャンル・分野について端的に記載します。
その上で、新製品等の属するジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いものであることを、それらを裏付ける客観的なデータ・統計等を示しながら、500字以内で説明します。 - 高付加価値性
・ 新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格について、 それらを裏付ける客観的なデータ・統計等を示しながら、説明します(300字以内)。
・ 新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格と比較して、自社が製造等する新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであることを、高付加価値化・高価格化の源泉となる自社の価値・強みの分析とともに、説明します(400字以内)。
6.新規事業の有望度
新規事業の有望度は3つの観点から説明します。
- 新規市場の将来性
新しく取り組む事業(補助事業)が、自社が対応できる範囲の中で、今後も安定して売上や利益をあげられる市場かどうかを説明してください。 また、その市場が今後さらに成長する見込みがあるかどうかも、あわせて記載します。 - 参入可能性
その新規事業が、自社の技術力・人材・ノウハウなどを活かして、実際に取り組める内容であるかを説明してください。 つまり、自社が「実行可能な体制を持っているか」がポイントです。 ======= 補助事業で取り組む新規事業が、自社がアプローチ可能な範囲の中で、継続的に売上・利益を確保できるだけの規模を有していることや成長が見込まれる市場であることについてその根拠とともに説明します(400字以内)。 - 参入可能性
以下の観点等を踏まえて、許認可・資格等以外の想定される参入障壁を明らかにし、それらをクリアするための取組み及び根拠を300字以内で記載します。- 技術力、ノウハウ、社内体制
- 規模の経済性
- 製品の差別化
- 設備投資費用、資金調達
- 顧客のスイッチングコスト
- 法律や制度面による制約
- 潜在顧客
想定される潜在顧客を分かる範囲で200字内で記述します。 - 競合分析
競合他社の状況や提供しているサービス・製品を調べたうえで、 顧客のニーズに基づき、自社がどのように他社と差別化できるか、どこに強みがあるのかを具体的に説明してください。 競争の中でも、自社の優位性が明確に伝わる内容とすることが重要です。
7.事業の実現可能性
事業の実現可能性は2つの観点から説明します。
- 課題及びスケジュール
・ 補助事業の事業化に向けた中長期での課題及び、事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法について説明します
・ 事業実施期間内に投資する建物の建設・改修等の予定、機械装置等の取得時期や技術の導入や専門家の助言等の時期についても、可能な限り詳細なスケジュールを記載します。 - 事業実施体制
・ 補助事業を実施するための体制(人材、事務処理能力等)、資金の調達方法について説明します。
・ 既存事業の縮小又は廃止、省人化により、従業員の解雇を伴う場合には、再就職支援の計画等の従業員への適切な配慮の取組について具体的に記載します。
下記の表は、新事業進出補助金の事業計画テンプレートに記載されている「スケジュール」の例です。 ここでまとめるスケジュールは、補助事業を行う期間(=設備投資をする期間)と、事業計画期間中の主な予定を示します。 このスケジュールは、後で説明する収支計画とは違い、事業が本当に実現できるかどうかを審査するために使われます。


8.公的補助の必要性
補助金がなぜ必要かについては、次の3つのポイントから説明します。1と2は書かなくてもよい任意の項目ですが、3は必ず書く必要があります。ただし、1と2もあわせてアピールできる事業計画の方が、採択されやすくなると言えます。
- 補助事業で取り組む新規事業の内容が、川上・川下への経済波及効果が大きい事業や社会的インフラを担う事業、新たな雇用を生み出す事業など、国が補助する積極的な理由がある事業である場合は、理由とともにその旨を記載します。(任意)
- 補助事業で取り組む新規事業の内容が、先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域やサプライチェーンのイノベーションに貢献し得る事業である場合は、理由とともにその旨を記載します。(任意)
- 国からの補助がなくとも、自社単独で容易に事業を実施できるものではないことについて説明します。(必須)
9.政策面
補助事業で取り組む新しい事業が、公募要領の「10.審査項目(6)政策面」に当てはまる場合は、なぜ当てはまるのか、その理由と一緒に書きましょう。 この項目は必須ではありませんが、しっかり書いておくことで採択される可能性が高くなります。
- 経済社会の変化(関税による各産業への影響等を含む)に伴い、今後より市場の成長や生産性の向上が見込まれる分野に進出することを通じて、日本経済の構造転換を促すことに資するか。
- 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国の経済成長・イノベーションを牽引し得るか。
- ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか。
- 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、大規模な雇用の創出や地域の経済成長(大規模災害からの復興等を含む)を牽引する事業となることが期待できるか。
10.補助対象予定経費
本項目は当然の記載内容と言えます。
- 補助対象とする予定のすべての経費について、経費の分類、名称、取得予定価格等を具体的に記載してください。なお、単価500万円(税抜き)以上の機械装置については、機械の種類が具体的に分かる名称を記載します。
- 補助対象とする予定のすべての経費について、補助事業を実施するうえで、それらが必要不可欠である理由を具体的に説明します。
11.収益計画
これまでご紹介してきた全11項目の中でも、収支計画は特に重要なパートです。 というのも、1〜10番目までに記載した内容をもとに、将来の売上・費用・利益などを数字で示す部分だからです。 事業全体の内容との整合性がとれているかどうかも審査の重要なポイントになります。 下記の1点目と2点目は必須、3点目は、賃上げ特定の適用を希望する場合に限られた任意記載です。
- 補助事業の事業化見込み
収益計画表を作成したうえで、補助事業の成果の事業化見込みについて、目標となる時期・売上規模・量産化時の製品等の価格等について記載します(300字以内)。 - 補助対象要件への該当性
「新事業売上高要件」と「付加価値額要件」について、収益計画表に入力した数値の算出根拠をそれぞれ300字以内で作成します。「賃上げ要件」、「事業場内最賃水準要件」、「賃上げ特例要件(賃上げ特例の適用を受ける場合のみ)」を満たす収益計画を作成のうえ、算出根拠とそれらを達成するための取組について具体的に記載します。 - 大規模な賃上げ計画の妥当性 <賃上げ特例の適用を希望する事業者のみ>
補助事業実施期間内に限らず、補助事業終了後も含めて、想定される継続的な賃上げの見込みを示します。賃上げに必要な経費や原資を明確にし、具体的な取組の内容を明記したうえで、実現可能であることを説明します(500字以内)。


まとめ
「新事業進出補助金」は、最大9,500万円まで補助を受けられる非常に大きな制度ですが、採択率はそれほど高くないと見込まれています。 そのため、賃上げ要件などの条件をきちんと満たした、説得力のある事業計画を作成することが極めて重要です。 私は、銀行での法人営業経験を持つ行政書士として、中小企業の皆様からの補助金に関するご相談・申請支援に対応しています。 また、当事務所では、 代表と同様の知識と経験を有する行政書士と連携し、単独依頼と同じ報酬体系での共同受任も可能です。 より質の高いサービスをご提供する体制を整えております。 LINE・お問い合わせフォーム・お電話のいずれからでも、お気軽にご連絡ください。
提携先:行政書士藤原七海事務所
参考法令・資料
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金サイト
- 中小企業庁「新事業進出指針」- 令和7年4月22日
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