中小企業新事業進出補助金の事業計画書の書き方
【2025年4月27日作成】
2025年4月22日に中小企業新事業進出補助金の公募要領が公開されました。 類似の多くの補助金では、事業計画の記載例やテンプレートが公開されていますが、 本稿の執筆時点では中小企業新事業進出補助金の「事業計画テンプレート」が公開されておりません。 公開され次第本稿を更新します。
事業計画書に記載する内容は、定性的な側面と定量的な側面の両面から、 具体的な理由や根拠を示しながら詳細に記載する必要があります(入力自体は電子申請システムに入力)。 本稿では、銀行への勤務経験もある行政書士が、本稿では、公募要領に記載の審査項目も参考に、事業計画の作成方法について詳しく解説します。

「中小企業新事業進出補助金」の概要、スケジュール、補助率、補助上限額、補助対象経費等について、下記の記事で詳しく解説しています。
2025年 中小企業新事業進出補助金 - 申請の要件、対象経費、スケジュール1.既存事業の内容
「中小企業新事業進出補助金」の事業計画の記載内容は計11項目ありますが、1点目の記載項目は既存事業の内容です。1.申請者の概要と2.既存事業の内容に2点に分けて記載します。とくに後段は、新規性の審査に重要であるため、現在の事業を網羅的に記載する必要があります。
- 申請者の概要
自社の概要や現在行っている事業等について簡潔に記載します - 既存事業の内容
現在行っている既存事業の内容を網羅的・具体的にすべて記載します
2.補助事業の具体的取組内容
2点目の記載項目は補助事業、すなわち新事業の具体的な内容す。審査上は最も重要な記載内容です。1.新事業進出指針への該当性と、2.新規事業の内容・目的の2点に分けて記載します。
- 新規性(新事業進出指針への該当性)
下記、(1)(2)のいずれかの新規性を満たす必要があり、事業計画書にその内容を具体的に記載します。(2)につき、単なる商圏の拡大は対象外です。
(1)製品等の新規性要件:既存製品等と新製品等の内容を記載をしたうえで、それらの相違点について具体的に記載します。
(2)市場の新規性要件:既存市場(顧客)と新市場(顧客)の内容を記載したうえで、それらの相違点について具体的に記載します。 - 新規事業の内容・目的
1.で事業の新規性が問われていますが、ここではその新規の事業(補助事業)の内容と目的について、具体的に記載します。
3.連携体の必要性(連携体申請の場合のみ)
連携体とは、複数の事業者が連携して事業に取り組むことで(最大20者まで)、補助事業に取り組むにあたって、 連携体を構成するすべての事業者が必要不可欠であることを説明する必要があります。 連携の必要不可欠性が認められない場合には、不採択となります。 連携体を構成するすべての事業者の取り組みを含む事業計画を1つ策定しますが、この3「連携帯の必要性」では、代表申請者及び連携体構成員それぞれについて、補助事業における役割及び必要不可欠である理由を具体的に記載します。
4.現状分析(SWOT分析)
- 現在の事業の状況
現在の事業の状況について説明します。 - SWOT分析
現状に関するSWOT分析(自社の強み・弱み・機会・脅威)を実施したうえで(それを前提に)、 新規事業を実施することの必要性について説明します。下記は、架空のテック系企業のSWOT分析の例です。

5.新規事業の新市場性・高付加価値性(新市場性と高付加価値性は選択制)
5点目の記載項目は新規事業の「新市場性」と「高付加価値性」です。いずれかを満たす必要があります。 前述の2では、製品の新規性に加えて、申請会社にとっての「市場の新規性」が求められましたが、 本規定の「新市場性」は、社会一般における普及度や認知度の観点からの新市場性が求めています。
- 新市場性
新製品等の属するジャンル・分野について記載してます。
その上で、新製品等の属するジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いものであることを、それらを裏付ける客観的なデータ・統計等を示しながら、説明します。 - 高付加価値性
・ 新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格について、 それらを裏付ける客観的なデータ・統計等を示しながら、説明します。
・ 新製品等のジャンル・分野における一般的な付加価値や相場価格と比較して、自社が製造等する新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであることを、高付加価値化・高価格化の源泉となる自社の価値・強みの分析とともに、説明します。
6.新規事業の有望度
新規事業の有望度は3つの観点から説明します。
- 新規市場の将来性
補助事業で取り組む新規事業が、自社がアプローチ可能な範囲の中で、継続的に売上・利益を確保できるだけの規模を有していることや成長が見込まれる市場であることについて説明します。 - 参入可能性
補助事業で取り組む新規事業が、自社にとって参入可能な事業であることについて説明します。 - 競合分析
競合分析を実施した上で、顧客ニーズを基に、競合他社と比較して、自社に明確な優位性を確立する差別化が可能であることについて説明します。
7.事業の実現可能性
事業の実現可能性は2つの観点から説明します。
- 課題及びスケジュール
・ 補助事業の事業化に向けた中長期での課題及び、事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法について説明します
・ 事業実施期間内に投資する建物の建設・改修等の予定、機械装置等の取得時期や技術の導入や専門家の助言等の時期についても、可能な限り詳細なスケジュールを記載します。 - 事業実施体制
・ 補助事業を実施するための体制(人材、事務処理能力等)、資金の調達方法について説明します。
・ 既存事業の縮小又は廃止、省人化により、従業員の解雇を伴う場合には、再就職支援の計画等の従業員への適切な配慮の取組について具体的に記載します。
8.公的補助の必要性
次の3点から補助金の必要性について説明します。 1と2は任意の記載で、3のみ必須ですが、1と2も含めて訴求できる事業計画の方が、採択に向けて、より有利に働く可能性が高いと言っていいと思います。
- 補助事業で取り組む新規事業の内容が、川上・川下への経済波及効果が大きい事業や社会的インフラを担う事業、新たな雇用を生み出す事業など、国が補助する積極的な理由がある事業である場合は、理由とともにその旨を記載します。(任意)
- 補助事業で取り組む新規事業の内容が、先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域やサプライチェーンのイノベーションに貢献し得る事業である場合は、理由とともにその旨を記載します。(任意)
- 国からの補助がなくとも、自社単独で容易に事業を実施できるものではないことについて説明します。(必須)
9.政策面
補助事業で取り組む新規事業の内容が、下記、公募要領の「10.審査項目(6)政策面」に記載されている事項に該当する場合は、理由とともにその旨を記載します。 本項目の記載は任意とされていますが、十分な記載がある方が採択に向けて有利であると言っていいと思います。
- 経済社会の変化(関税による各産業への影響等を含む)に伴い、今後より市場の成長や生産性の向上が見込まれる分野に進出することを通じて、日本経済の構造転換を促すことに資するか。
- 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国の経済成長・イノベーションを牽引し得るか。
- ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか。
- 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、大規模な雇用の創出や地域の経済成長(大規模災害からの復興等を含む)を牽引する事業となることが期待できるか。
10.補助対象予定経費
本項目は当然の記載内容と言えます。
- 補助対象とする予定のすべての経費について、経費の分類、名称、取得予定価格等を具体的に記載してください。なお、単価500万円(税抜き)以上の機械装置については、機械の種類が具体的に分かる名称を記載します。
- 補助対象とする予定のすべての経費について、補助事業を実施するうえで、それらが必要不可欠である理由を具体的に説明します。
11.収益計画
最後11番目は収支計画です。 本稿で紹介の11点どれも等しく重要ですが、収支計画は1から10番目までの全ての記載を前提として、それらを定量的な将来の収支計画として表現するという性格を持ち、全体との整合性を含めて重要性が高い項目です。 下記の1点目と2点目は必須、3点目は、賃上げ特定の適用を希望する場合に限られた任意記載です。
- 補助事業の事業化見込み
収益計画表を作成したうえで、補助事業の成果の事業化見込みについて、目標となる時期・売上規模・量産化時の製品等の価格等について記載します。 - 補助対象要件への該当性
「新事業売上高要件」、「付加価値額要件」、「賃上げ要件」、「事業場内最賃水準要件」、「賃上げ特例要件(賃上げ特例の適用を受ける場合のみ)」を満たす収益計画を作成のうえ、算出根拠とそれらを達成するための取組について具体的に記載します。 - 大規模な賃上げ計画の妥当性 <賃上げ特例の適用を希望する事業者のみ>
補助事業実施期間内に限らず、補助事業終了後も含めて、想定される継続的な賃上げの見込みを示します。賃上げに必要な経費や原資を明確にし、具体的な取組の内容を明記したうえで、実現可能であることを説明します。
まとめ
「中小企業新事業進出補助金」は、最大で9,500万円の補助が見込める大型の補助金である一方、採択率はさほど高くないことが想定される中、賃上げ要件他要件を満たす事業計画の策定が極めて重要です。 筆者は、銀行勤務経験(法人営業)を有する行政書士として、中小企業の皆様の「中小企業新事業進出補助金」 の相談と申請支援に応じています。 加えて当事務所では、中小企業の皆様により上質なサービスを提供すべく 当事務所代表と同様の知識と経験を有する行政書士とともに、単独受任時と変わらない報酬での共同受任にも応じています。 LINE、問い合わせフォーム、または、お電話にてお気軽にお問い合わせ頂ければ幸いです。
提携先:行政書士藤原七海事務所
参考法令・資料
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金サイト
- 中小企業庁「新事業進出指針」- 令和7年4月22日
本稿の筆者

行政書士
基本情報技術者
J.S.A. ワインエキスパート
古森洋平 Yohei Komori