酒類の買取り販売業における古物商許可の必要性
ブログをご覧頂きありがとうございます。本稿では、ワインやウィスキー等酒類の買取り販売店が、古物商許可を得る必要性について、J.S.A. ワインエキスパートで行政書士の古森が考察します。なお、同ビジネスにおいて酒類販売業免許が必要であることは明らかで、本稿で紹介する古物営業法のように解釈がゆらぐ余地がほぼありません。酒類販売業免許について規定する酒税法第九条の解釈については、別の投稿で考察したいと思います。
酒類の古物該当性
酒類が古物に該当すると古物商許可が必要となりますが、結論から申し上げると、古物営業法の解釈を事務所のホームページ上でされている行政書士先生の多数の意見(以下、多数説)によれば、酒類は古物に該当せず古物商許可は不要(あるいは取得不可)となり、一方で酒類は古物に該当するとの立場の先生もいます。筆者は前者(多数説)の立場ですが、それでも酒類等を消費者等から買い取って販売するビジネスにおいては、古物商許可を取得する余地があると考えており、その理由と方法については関連する法令の解釈に続いて、本稿の後段で説明します。
さて、古物の定義は、古物営業法に規定されており、同法第二条でその対象となる古物が定義されています。
第二条 この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
出所:古物営業法第二条
第二条では、古物を品目ではなく、使用の状態によって定義した上、政令で定めるもの(品目)は古物に該当しないとされています。政令(古物営業法施行令)の第二条では、除外される大型機械類として、船舶、航空機、鉄道その他土地に定着されているもの(品目)が指定されています。
また、第二条の「使用されない物品で使用のために取引されたもの」につき、警察庁の令和6年の通達では、次のように解釈されています。
法第2条第1項中「使用のために取引されたもの」とは、自己が使用し、又は 他人に使用させる目的で購入等されたものをいう。したがって、小売店等から一 度でも一般消費者の手に渡った物品は、それが未だ使用されていない物品であっ ても「古物」に該当する。例えば、消費者が贈答目的で購入した商品券や食器セットは、「使用のために取引されたもの」に該当する。
出所:古物営業法の解釈運用基準について(令和6年警察庁通達)
よって、第二条とその解釈に係る通達を読む限りでは、消費者が酒販店から購入したワインやウィスキーで未開栓のものは、「使用のために取引された」もの、すなわち古物に該当しそうです。他方で、一般に条文の解釈においては、当該条文のみならず、対象となる法律と関連する法律から整合的に解釈するとされます。古物営業法の目的規定である第一条を確認します。
第一条 この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。
出所:古物営業法第一条
盗品等の売買を防止し、速やかに発見等を図ることで、犯罪の防止と被害の迅速な回復に資することが古物営業法の目的とされています。よって、品物によっては数十万円以上で取引がされているワインやウィスキーについても、盗品の対象(転売・換金の対象)となり得ることから、その取引には必要な規制を行うことが必要となりそうです。実際、フランスや日本においても、ワインの窃盗は複数報道されており、目的規定からは、酒類の古物該当性が肯定されます。
続いて、多数説である酒類の古物非該当説の論拠となっている、古物営業法第五条一項三号とその内容を具体的に定める国家公安委員会規則を確認します。
第五条 第三条の規定による許可を受けようとする者は、その主たる営業所又は古物市場の所在地を管轄する公安委員会に、次に掲げる事項を記載した許可申請書を提出しなければならない。この場合において、許可申請書には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。
一氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二主たる営業所又は古物市場その他の営業所又は古物市場の名称及び所在地
三営業所又は古物市場ごとに取り扱おうとする古物に係る国家公安委員会規則で定める区分
(四号以下省略)
古物営業法第五条は、古物営業(古物商又は古物市場)の許可申請書に記載すべき内容について定めた規定で、第一項第三号では、取り扱おうとする古物を、国家公安委員会規則で定める区分に従って、申請書に記載することを求めています。国家公安委員会規則を確認します。
第二条 法第五条第一項第三号の国家公安委員会規則で定める区分は、次のとおりとする。
- 一 美術品類(書画、彫刻、工芸品等)
- 二 衣類(和服類、洋服類、その他の衣料品)
- 三 時計・宝飾品類(時計、眼鏡、宝石類、装身具類、貴金属類等)
- 四 自動車(その部分品を含む。)
- 五 自動二輪車及び原動機付自転車(これらの部分品を含む。)
- 六 自転車類(その部分品を含む。)
- 七 写真機類(写真機、光学器等)
- 八 事務機器類(レジスター、タイプライター、計算機、謄写機、ワードプロセッサー、ファクシミリ装置、事務用電子計算機等)
- 九 機械工具類(電機類、工作機械、土木機械、化学機械、工具等)
- 十 道具類(家具、じゅう器、運動用具、楽器、磁気記録媒体、 蓄音機用レコード、磁気的方法又は光学的方法により音、 影像又はプログラムを記録した物等)
- 十一 皮革・ゴム製品類(カバン、靴等)
- 十二 書籍
- 十三 金券類(商品券、乗車券及び郵便切手並びに古物営業法施行令 (平成七年政令第三百二十六号)第一条各号に規定する証票その他の物をいう。)
国家公安委員会規則では、古物を13の品目に区分しており、申請者は、主として取り扱う品目を少なくとも一つ選ぶ必要があります。酒類との明記がないのは明らかです。続いて、13の品目それぞれの括弧内で具体例が示され最後に「等」とあることから、記載は例示であって限定的に列挙する趣旨ではないと解釈されますが、それでも、ワインやウィスキー等酒類を「等」に読み込める区分がありません。
よって、ワインやウィスキー等酒類は観賞用の美術品であるなど、無理があるとしか思えない解釈をしない限り、ワインやウィスキー等酒類を13の品目から選ぶことができず、酒類のみの取扱いでは、古物営業許可を申請できないということになります。
酒類を古物営業許可申請書に記載できないのであれば、酒類の取引については、 「古物営業に係る業務について必要な規制(第一条)」をしないことが法の趣旨と解され、 あわせて、酒類は「古物(第二条)」に該当しない旨の、法令全体の整合的な解釈が導かれます。 こちらが多数説の考え方であり、よって、 ワインやウィスキー等酒類の買取り販売店では、古物商許可は不要かつ取得不可となります。
それでも酒類の買取り販売ビジネスにおいて、古物商許可は必要か
多数説と筆者の立場では、ワインやウィスキー等酒類の買取り販売店では、 古物商許可は不要かつ取得不可であるにも関わらず、 ワインやウィスキー等酒類の買取り販売店をインターネット上で検索すると、 その全てが酒類販売業免許を取得した上、 多くが酒類販売業許可に加えて古物商営業許可も取得しています。
出所:警視庁ホームページ
高値で取引されるようなワインを保有する消費者は、ワインのみならず、 ワインセラー、ワインキャリアー、ソムリエナイフ、デキャンタ、ワイングラス、ワインクーラーなど、 ワインの保存・運搬・開栓のための道具類を揃えており、 とくにワインセラーとソムリエナイフは高価のものも多く、 例えばヤフーオークションでも取引があります。
よって、事業者のビジネスの機会や顧客のニーズに着目すると、 ワインやウィスキー等酒類を買取る際は、酒類のみならず、 ワインセラーやソムリエナイフも買い取る機会と潜在的な顧客ニーズがあるということになります。 ワインセラーは、先ほどご紹介した国家公安委員会規則の分類では機械工具類に、 ソムリエナイフは道具類(場合によっては美術品類)に該当しますので、 取り扱う場合は古物商の許可を要します。
実際のワインやウィスキー等酒類の買取り販売店が、 酒類販売業免許に加えて古物商の許可を取得している理由は、上述の理由の他にも、 13品目のいずれかに該当する古物商が新たに酒類の取扱いを始めたケース、 本稿で紹介したような古物営業法の解釈のゆれがゆえ、 管轄の税務署あるいは警察署から古物商許可の取得を求められたなどのケースが想定されます。
当事務所で、ワインやウィスキー等酒類の買取り販売店の相談を頂く場合は、 事前にビジネスモデルを詳細にお伺いした上で、 必要に応じて税務署と警察署に相談しつつ、 酒類販売業免許と古物商許可の要否について、ご提案させていただきます。
- 酒税法第9条
- 国税庁「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」第9条第1項関係
- 古物営業法第1条・第2条・第5条
- 古物営業法施行令第2条
- 古物営業法施行規則第2条
- 警察庁(令和6年8月14日)「古物営業法等の解釈運用基準について(通達)」
- 最一小判昭和31・3・29(集刑第112号851頁)- 古物営業法違反 - 古物営業法第六条にいう「営業」の意義
- 憲法第31条・第41条・第39条・第73条6項但書
- 最一小判昭和33・5・1(刑集12巻7号1272頁)- 立法の委任(1)犯罪構成要件の再委任「憲法判例百選(第5版)」476頁-477頁
- 最大判昭和33・7・9(刑集12巻11号2407頁)- 立法の委任(2)人事院規則への委任「憲法判例百選(第5版)」478頁-479頁
- 最一小判平成2・2・1(民集44巻2号369頁 - 立法の範囲(2)銃砲刀剣類登録規則「行政法判例百選Ⅰ(第5版)」96頁-97頁
- 最一小判平成14・1・31(民集56巻1号246頁 - 立法の委任(3)委任の範囲「憲法判例百選(第5版)」480頁-481頁
- 警察庁生活安全総務課防犯営業第二係 「古物商許可申請をされる方へ」
本稿の筆者
行政書士
東京都行政書士会所属
J.S.A. ワインエキスパート
古森洋平 Yohei Komori