ワインショップとバーの開業に必要な免許・届け出
ブログをご覧頂きありがとうございます。 本稿では、ワインショップ、バーの他、キャバクラ、ホストクラブなど接待を伴うお店の開業を検討されている方のために、業態別に必要な免許・届け出の概要について、J.S.A. ワインエキスパートの資格を持つ行政書士の古森(こもり)が解説いたします。
一般酒類小売業免許とは
いわゆる酒屋やワインショップに必要な免許です。ビール、日本酒、ワインなどの酒類を、栓を開けずに缶やボトルのまま消費者、または飲食店に販売するための免許です。酒屋やワインショップなどのお店では、開栓してお酒を提供することは原則できず、反対に、バー等の飲食店では、ボトルを開栓せずにお酒を販売することはできません。一般酒類小売業免許は酒税法に規定されており、要件は次の3つに分かれています。
- 人的要件
- 場所的要件
- 経営基盤要件
◇人的要件
主な要件として、申請者は、過去に酒類の製造・販売免許の取消処分を受けている場合、その日から3年が経過している必要があります。また、国税や地方税の滞納処分や税法違反による罰金刑を受けた場合も、処分や刑の執行終了から3年が経過していることが求められます。さらに、暴力行為や未成年者への酒類提供などで罰金刑以上の刑を受けた場合も、執行終了から3年が経過していることが条件となります。
免許権者が国税庁・税務署で、安定的な税収の確保が酒税法の目的でもありますので、所得税法人税を問わず、申請者が税金を滞納している場合は、免許は受けることができない点、とくに注意が必要です。
◇場所的要件
人的要件が申請者の要件であるのに対して、場所的要件は実際に店舗(酒税法では販売場)を開く場所と店舗に関する要件です。具体的には、申請する販売場は、他の酒類製造場や販売場、酒場、料理店などと同じ場所にあってはならず、独立した場所である必要があります。また、販売場の区画や専属販売員の有無、独立した代金決済などにより、他の事業者の営業と明確に区別されていることが求められます。
国税庁・税務署としては、販売場にかかる税収を確実に確保したいので、他の業態(お酒の開栓を伴うバーなどの業態)と当該販売場が明確に区別されている必要があります。従って、バーとワインショップは、同じ空間で混然一体と経営することはできないということになります(ワインショップにおける試飲は認められることがある)。
◇経営基盤要件
人的要件と場所的要件については、内容は違えど、深夜のバーや接待を伴う飲食店を規制する風営法にも類似の規定がありますが、経営基盤要件は酒販店に求められる特に注意を要する要件です。詳細は別の寄稿でご紹介したいと思いますが、簡潔にまとめると、申請者は酒類販売経営に必要な知識や経験を有し、継続的に営業できる体制・経験・知識があることが求められます。 また適正な財政状態と、販売場に必要な施設・設備も整備されている必要があります。
税収を将来に亘って安定的に確保するためには、酒販店が簡単に潰れてもらっては困るという政策的な考え方が背景にありそうです。酒類販売管理者の設置など、他にも要件は多いですが本稿では割愛します。
バーの開業に必要な免許
あらゆるバーの開業には飲食店営業許可を要します。客の接待を伴わず、0時より前に閉店する場合は飲食店営業許可だけでバーの開業が可能です(別途、用途地域の制限には留意が必要)。バーで客の接待をする場合には、飲食店営業許可に加えて風営法に規定されている風俗営業許可(第1号営業許可)を要します。また、客の接待はできませんが、深夜(午前0時から午前6時)にバーの営業を行う場合には、飲食店営業許可に加えて、風俗営業許可(深夜酒類提供飲食店営業届出)が必要です。
◇飲食店営業許可
バーに限らず、あらゆる飲食店を営業するには、食品衛生法の定めにより、都道府県知事の許可を受けなければなりません。食品衛生法では、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること(食品衛生法第一条)を目的としています。そのため、飲食店営業にあたって、人的欠格基準と施設基準の2つを定めています。人的欠格基準については、先ほどの一般酒類小売業免許の人的要件とは少し異なりますが似たような規定となっています。施設基準の具体的な内容は、各都道府県がその条例によって定めることとされており、東京都の条例の概要は下記の通りです。
東京都 - 飲食店の施設基準の概要
- 衛生的な構造と区画:飲食店は、屋外からの汚染を防ぎ、衛生的な環境を維持できるように十分な広さと適切な設備を持つことが必要です。作業エリアは、衛生管理のために区画され、汚染防止策が施されている必要があります。
- 清掃しやすい構造と設備:床面や内壁は、清掃・消毒がしやすい素材でできており、排水が良好な不浸透性の材料が使われる必要があります。換気や空調設備により結露やカビの発生を防ぐことが求められます。
- 手洗いや給水設備:従業員用の手洗い設備が設置され、流水での洗浄・消毒が可能な状態とする必要があります。調理や飲料提供に必要な清潔な水が供給されるよう、給水設備が整備されている必要があります。
◇風俗営業許可(第1号許可)
飲食店営業許可のみを取得したバーでは、お客さんを「接待」することはできません。「接待」とは、風営法第2条第3項で「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と定義されており、具体的にはスナック、キャバクラ、ホストクラブ、ガールズバーなどの業態で行われている接待が該当します。バーで接待を行うためには、飲食店営業許可に加えて風営法上の風俗営業許可(第1号営業許可)が必要です。
善良な風俗と清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するために(風営法第1条)、風俗営業許可(第1号許可)では、大きく次の3つの基準を充足する必要があります。
- 人的欠格事由
- 営業所の構造及び設備の技術上の基準
- 営業所の場所的基準
人的欠格事由の概要は次の通りです。下記の2点目に関連し、法令では多くの犯罪が欠格事由として規定されており、刑法の罪以外にも、風営法の無許可営業、無承認構造変更、名義貸し、禁止地域での営業が欠格事由に該当する他、労働基準法、児童福祉法、出入国管理及び難民認定法などに規定されている罪も対象となります。
1.人的欠格事由(重要な事項のみを抜粋)
- 破産手続が開始され、復権を得ていない者
- 1年以上の懲役・禁錮刑、または風営法第49条又は第50条第1項に規定する罪、その他法第4条第1以降に掲げる罪で1年未満の刑を受け、刑の執行から5年以内の者
- 集団的または常習的に暴力的・違法行為を行う恐れがある者
- アルコール、麻薬、大麻、覚醒剤などの中毒者
- 心身の問題により風俗営業を適切に行うことができない者
次は営業所(店舗)の構造や設備に関する基準です。客室の広さ、照明の照度、間仕切りの高さ、適切なプレートや表示に関する決まりなど、法令ではかなり細かく規定されています。申請書類においては店舗の図面で基準を充足していることを示す必要があります。1号許可においては、申請後に浄化協会による実査があり、基準を満たしているか否かが確認されます。
2.営業所の構造及び設備の技術上の基準(主要な項目の抜粋)
- 客室の床面積:和風の客室は9.5平方メートル以上、その他の客室は16.5平方メートル以上とする。ただし、1室のみの場合は例外とする
- 客室の視認性:営業所の外部から客室内部が簡単に見えない構造にすること
- 見通しを妨げる設備の禁止:客室内に見通しを妨げる設備を設けないこと
- 不適切な装飾の禁止:風俗環境を損なう恐れのある写真、広告物、装飾等を設けないこと
- 施錠の禁止:客室の出入口に施錠設備を設けないこと。ただし、外部に直接通じる出入口は例外とする
- 照度の維持:営業所内の照度が5ルクス以下にならないよう、必要な構造・設備を有すること
- 騒音・振動の管理:騒音や振動の数値が条例の基準に満たないよう、必要な構造・設備を備えること
続いて営業所(店舗)の場所的基準です。営業所の周囲100mに学校、保育園、病院等がある場合は許可されません。内装工事も全て終えてから本規定で不許可となった場合は、大きな損失になりますので、営業所周辺の慎重な実査に加えて、保育園、病院を管轄する各役所への調査も不可欠です。
3.営業所の場所的基準
- 不許可の地域:営業所は、住居集合地域や学校、図書館、児童福祉施設、病院、診療所(保全対象施設)の周囲100m以内に設置することができない。
- 保全対象施設の定義:具体的な保全対象施設は、条例によって規定される。例えば東京都の条例では、学校は幼稚園から大学までを含み、児童福祉施設には保育所の他に、保育園、児童館を含む。
- 特定地域の例外:特定の商業地域では、風俗営業所の密集地域として、規制を緩和する例外があります。東京都の例外地域には、中央区銀座四丁目から八丁目、港区新橋二丁目から四丁目などが含まれます。
◇深夜における酒類提供飲食店の届出基準
バーを深夜0時以降も営業したい場合に必要な届出です(接待は不可)。飲食店の営業許可を取得した上で届け出をします。深夜における酒類提供飲食店の届出は、先ほどの風俗営業許可(第1号許可)と同様に風営法で規定され、要件もよく似ていますが、部分的に緩和されています。
- 人的欠格事由
- 営業所の構造及び設備の基準
- 営業所の場所的基準
人的欠格事由の規定はないので、飲食店営業許可の要件さえ満たせばよいことになります。続いて、営業所の構造と設備に関する基準です。 こちらは風俗営業許可(第一号許可)によく似た基準となっています。
2. 営業所の構造及び設備の技術上の基準(主要な項目の抜粋)
- 客室の床面積:客室の床面積は9.5㎡以上とする。ただし、客室が1室のみの場合は例外とする
- 見通しを妨げる設備の禁止:客室の内部に見通しを妨げる設備を設置しないこと
- 不適切な装飾の禁止:善良な風俗や清浄な環境を害する恐れのある写真や装飾を設置しないこと
- 施錠の禁止:客室の出入口に施錠設備を設置してはならない。ただし、営業所外に直接通じる出入口は例外とする
- 照度の維持:営業所内の照度が20ルクス以下にならないこと
- 騒音・振動の管理:騒音や振動のレベルが条例で定める基準に達しないように管理する
営業所の場所的基準については、用途地域に応じた規制となっています。具体的には、下記の住宅系の用途地域では深夜における酒類提供飲食店の届け出はできません。
3. 営業所の場所的基準
- 第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、 第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、田園住居地域
本稿は2024年10月現在の法令に基づき、東京都内での開業を想定して作成しています。また、簡単な概要だけを示しており、必要な基準・要件を網羅しておりません。実際の申請にあたっては、本稿筆者の古森、または、他の酒税法・風営法を専門とする行政書士の先生にご相談ください。
本稿の筆者
行政書士
東京都行政書士会所属
J.S.A. ワインエキスパート
古森洋平 Yohei Komori